大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ワ)13166号 判決

主文

一  被告は、別紙一覧表原告欄記載の各原告らに対し、同一覧表未払賃料合計額欄記載の各金員及び右各金員のうち同一覧表平成三年一二月末の未払賃料欄記載の各金員に対しては平成四年一月一日から、同一覧表平成四年六月末の未払賃料欄記載の金員に対しては同年七月一日から各支払済みまで日歩五銭の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

理由

一  請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因3の事実は、賃貸借契約締結の日、別紙一覧表原告番号二四の原告武田亨の一年間の約定賃料の額、同表原告番号四二の契約当事者除き当事者間に争いがなく、本件賃貸借契約の締結日がいずれも原告の主張の日であることは、《証拠略》により認めることができ、原告武田亨の一年間の約定賃料の額が一一九万五〇〇〇円であることは、《証拠略》により、別紙一覧表原告番号四二の契約当事者が法人である株式会社チャームショップきむらであることは、《証拠略》により、いずれも認めることができる。

このように、本件建物は、原告らが訴外会社から買い受け、これを直ちに被告に年間賃料額を明示した上で賃貸したものであつて、原告らと被告との本件建物についての契約関係が賃貸借契約関係であることは明らかである。

三  被告は、右各賃貸借契約における貸主が実質上は原告ではなく、原告らが加入している組合であるとした上、右組合契約は、訴外会社が最初に本件建物の区分所有権を取得した者との間で、それぞれがその所有する本件建物の専有部分及び共用部分の使用権を出資し、本件建物をホテル経営のために被告に賃貸して収益を上げることを主たる目的として締結され、その後、訴外会社が本件建物の区分所有権を売却し、区分所有者が増加する都度、本件組合の既存の全組合員及び新たな区分所有者において、新たな区分所有者がその取得した専有部分及び共用部分の使用権を出資し、共同して本件組合の事業を営む旨の加入契約を締結していつたものである旨主張する。しかし、組合契約とは、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによつてその効力を生ずるものであるところ(民法六六七条一項)、被告の右主張によれば、本件組合契約は、当初は、訴外会社と区分所有者との間において締結され、その後は、訴外会社から本件建物の区分所有権を取得した者と既存の区分所有者との間において締結されたものであるというのであるが、本件において、組合契約の当事者となるべき者は、原告ら相互間にほかならず、右組合契約が訴外会社と最初の区分所有者との間で締結されたものである旨の主張は、それ自体失当である。また、被告は、最初の区分所有者がその後に本件建物の区分所有権を取得した者との間で右の趣旨の組合契約を締結したというのであるが、本件の全証拠を総合しても、原告らの間で右のような組合契約が締結されたと認めることはできない。たしかに、原告らが本件建物を訴外会社から買い受けたのは、もつぱら、これを被告に賃貸し、被告から賃料収入を得ることを目的とし、他の目的でこれを使用収益することを企図していなかつたことは、弁論の全趣旨から窺えるところであるが、このことから直ちに、原告ら相互間に被告主張のような組合契約が締結され、被告において、本件建物を運営した結果、当初予定した収益を組合員全員が受領することができない状態になつた場合、改めて本件建物につき現在得ることができる収益の分配方法、分配時期等について被告の主張する組合(原告らを含む区分所有者全員)の決議により決定を経ることを要するといつたような被告に対する権利を行使する上での拘束を受ける旨を原告ら相互間で合意していたと解することは到底できない。

四  また、被告は、区分所有建物の共用部分を利用する事業をするについては、管理、対価の徴収等の団体的な決定を要するのであり、事業に基づく収益については、区分所有者間に当然に成立する団体に含有的に帰属して団体の財産を構成し、右団体において収益の分配方法等が決定されない限り各区分所有者の具体的な利益分配請求権は発生せず、本件建物の賃貸から生ずる収益について、専有部分と共用部分とが物理的、用法的に一体不可分であるという区分所有建物における構造上の特殊性等にかんがみると、専有部分についての賃料についても共用部分についての賃料と同様に原則として右団体に合有的に帰属するから、前記同様、当初予定した収益を得られない状況においては、右団体は組合を構成している場合と同様に改めて現在の収益に関し分配方法等の決定をする必要がある旨主張する。しかし、被告の右主張は、原告ら相互間に本件建物の各専有部分及び共用部分を被告に貸し渡すという共同の事業を営み、右各専有部分及び共用部分を被告が運用して得た収益を原告ら相互間で分配する旨の一種の共同事業契約ないし利益分配契約が締結されたことを前提とするものと解するほかないが、右共同事業契約とは、前記の組合契約を指すものにほかならず、その存在が認められないことは、前記のとおりである。また、原告ら相互間に右のような内容の利益分配契約が締結されたとの事実は、本件全証拠を総合しても認めることができない(かえつて、《証拠略》によれば、原告らと被告との間の賃貸借契約においては、年間の賃料額が定額をもつて定められ、これを増減するときは、原告らと被告との個別的な協議による旨が定められていることが認められ、被告主張のような合意が原告ら相互間であつたことと明らかに矛盾する)から、このような合意があつたことを前提とする被告の主張が失当であることは明らかである。要するに、原告らは、各自個別的に自らの取得した本件建物の専有部分及び共用部分を被告に賃貸したものというほかなく、原告ら相互間にかかる団体的拘束を相互に課する旨の合意が成立したということはできないのである。

五  よつて、被告の主張は理由がなく、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中俊次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例